2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧
(3) (……あつ、い……) 心臓の中心で、ごうごうと炎が燃えている。燃え盛るそれは還流する血液を沸き立たせ、心臓の拍出に伴って濁流のように全身を巡る。熱せられた血液は身体の細部にまで送り届けられ、全身を焼き尽くすようだ。 燃え尽きてしまいそうに熱…
(2) 電子カルテの導入に伴い、通常業務が終了した後に、自室で自分が担当した患者の数年分の検査データをパソコンに入力していたサクラは、あれ、と呟いた。 「やだ、ヤマト隊長、貧血気味だったの……?」 手にしたカルテに記載されているここ数年分の血液…
――例えて言うならばそれは、大海に落とされた毒にも似て。 どれほどの大波に洗われて薄まろうとも、その毒が決して消えることのないように。 長きに渡るあの大戦の後遺症は、静かに、けれど確実に、この星を蝕み始めていた。 Silent Spring (1) 大いなる厄災…
――進んだ先、視界に映り込んだ光景に、ヤマトは痛ましげに目を伏せた。 もう何年も人の手が入らなくなり、今にも崩れ落ちそうな廃墟の裏。 その片隅にまるでガラクタのように無造作に積み上げられているのは、無数の骨だった。火葬されたのではなく、死後、…
――それもまた、彼が何度も行ってきた実験のひとつ、否、もしかしたら戯れと称される類のものだったかも知れない。 かつて、命のあまりの脆弱さに絶望した。 誰しもが尊いというけれど、いとも容易く失われるその軽さを、軽蔑した。 有限の命を無限とするため…
何かを遺したいというわけではありません。 何かを伝えたいというわけではありません。 ただ、子ども達の未来(さき)に、もう二度と暗い影を落としたくないだけなんです。 ――静かにそう告げる口調には深い決意が感じられ、真直ぐに見返してくるその黒い双眸…
――確かに劣化が著しいわね。 意識を失ったその男を見て、大蛇丸は改めてそう思った。 遺伝子の呪縛 第四次忍界大戦終了後、断罪されるかと思いきや、里の判断は大蛇丸の想像以上に甘すぎるものだった。曰く、拘束はするがその才能は惜しいので、遺憾なくその…
◆小鳥の巣 「どうぞ、僕は君からもらう」その言葉に彼は薄く微笑み、赤い薔薇を摘み取った。その手の内で見る間に色を失う艶やかな深紅。彼は唇をちろりと舐めて潤んだ蠱惑的な目で僕を見ると、両腕を僕の首にするりと絡ませた。少し冷えた彼の唇が僕のそれ…
◆「君の嘘を証明します」 俺は誰のものにもならないよと貴方はそう言うけれど、それが嘘だって事、僕は誰よりも知っている。だって貴方は僕を拒まない。この腕に抱かれる事を貴方は心から望んでいる。望みのままに僕以外の事を考えられない位、気持ちよくシ…
◆「もう口実はいらない」 貴方が僕を気にしているのは知っている。けれど貴方は卑怯で弱い人だから、絶対に自分から動くことはない。僕が貴方をどうしたいのか分かり切っているはずなのに、いつも素知らぬ風に僕に微笑む。焦らして、誘って、僕が決定的な言…
◆「貴方は自分の実力を最大限に使って『遊び疲れて一緒に爆睡してるテンカカ』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。」(診断メーカーお題) 誰が言い出したか、里を挙げての鬼ごっこ。戦いを忘れ、上忍から下忍を交えての大騒ぎ。気付けば残った…
通り過ぎるだけの時間に、区切りをつける意味が分からなかった。 昨日も今日も、明日もその先も、時計の針は同じように進む。 日付が変わったとて、何も変わることなく、淡々と時は過ぎていくはず。 『時間』なんて目に見えぬものを暦という形にしたのは、所…
術の発動を感知し、テンゾウは暗部面の下、ひっそりと笑みを浮かべた。 一か月ぶりに戻って来た里内は、すっかりオレンジと黒の独特の色合いの、クリスマスの装飾とはまた違った風合いで華やかに彩られ、陽は落ちたが電灯などでまだ明るい里内のその闇を縫い…
九月十五日。 仰ぎ見た空はいつの間にか遥か高く、夏は足早に通り過ぎようとしている。 ……テンテン カンカン テンテテ カッ 軽妙に打たれる太鼓の響き。 そこに重なる横笛の調べ。 浴衣で着飾った子ども達の履いた下駄が、カタカタと軽やかな音を立てる。 そ…
11時50分。 ようやく全ての片付けを終えたテンゾウが居間に戻ってみると、カカシはソファーを占領して、大層行儀の悪い恰好でいつものように愛読書を読み、まるで自分の家のような寛ぎっぷりを見せていた。 それは、見慣れたいつもの光景。 テンゾウの姿を視…
耳に残るメロディーがある。 静かに、甘く、鼓膜をとおして沁みいるそれは。 とてもやさしい、あいのうた。 それはいつかのあいのうた 足早に通り過ぎた夏の後、待ち受ける冷たい冬に急かされるような、秋の深まり。 いっかな減らぬ山積した仕事の隙をついて…
世界が、壊れていく音がした。 同僚の制止を振り切って、はやる本能の命ずるままに駆け付けたその場所。 息をすることすら忘れて、無我夢中で宙を駆けた。 途中で装備していた面が外れたが、それすら構わずただひたすらに、飛んだ。 たどり着いた先。 寄り添…
――音もなく、炎が燃えていた。 押し寄せる闇を跳ね返すように、炎はゆらめき、火の粉を散らす。 男はひとり焚き火の前に座り、静かに炎を見つめていた。 The flame lights up the darkness いつからこうしているのかはもう定かではないが、この火を絶やさぬ…
土砂降りの雨だった。 真っ暗な夜空から間断なく降り注ぐ雨は、まるで矢のように衰弱した体を容赦なく打ちのめす。身に着けていた簡素な服はとうにぐっしょりと濡れそぼり、皮膚に隙間なくぺたりと張り付いて、保温どころか一秒ごとに子どもの体温を奪ってい…
(……いいニオイ……) 空腹感を助長する温かいニオイに鼻をくすぐられ、カカシは目を開けた。 外に面する障子は閉て切られていたが、白い薄紙の向こうからはすでに夜が明けてしばらく経ったことを示す透明な明るさを感じる。昨夜も戸締りでしっかりと雨戸を閉…
クナイや巻物と一緒に出された『それ』を見た瞬間、カカシの目がわずかに見開かれた。 『――……』 その反応に、テンゾウは下を向いて思わず顔を赤らめる。動きにあわせて肩先まで伸びた髪がさらりと揺れた。 (――だから、イヤだったんだ) とある任務の帰りし…
――ずっと側にいてくれたでしょ? 不意に、男は自己を自覚した。浅い眠りから覚めた時のように定まらぬ視界のまま、男は周囲を見渡す。そこには一面の花畑が広がっていて、けれどそこはひどく空虚な世界だった。 満開の時とばかりに花開いているそのちいさく…
encounter (……先輩、どうしたんですか?) 目的地直前で不意に足を止めたカカシに、後続していた猫面のテンゾウがそっと尋ねる。カカシのチャクラが急に乱れた。どうしたのかとちらりと後ろから視線を送るが、自身も含めて隠密行動用のフードをすっぽりと被…
少しずつ精神(こころ)と身体のバランスを乱し、ゆっくりと、けれど確実に歯車が壊れていった父は、それでも調子が良く、床を離れることが出来た日には、かつてのような忍装束に身を包み、愛用のチャクラ刀を携えて、その場所を訪れていた。 木の葉の里の象…
下忍に成りたての頃はその年齢のせいか、上忍である父親が任務に付き添うことが何回かあった。今にして思えば、白い牙と称された父サクモの里への圧倒的な貢献力から特別に許可されたことではなかったかと思うが、はたけ家は父一人子一人の家庭であったから…